第9回 受賞作品

特別賞

いただき、つくり、つながり、かえす

西本 敦哉(京都市立芸術大学大学院)
小池 新(京都市立芸術大学大学院)
平澤 綾(京都市立芸術大学)

コンセプト

 敷地は、トキと共生するまちづくりが積極的に行わる新潟県佐渡島の農村地帯であり、無農薬農法をはじめとした様々な活動が行われている。しかし、高齢化や人手不足による耕作放棄地の拡大が課題となっている。そこで私たちは、自然の恵みを頂戴する持続可能な村づくりを行いながら、村全体のネットワークの修復、拡大を行い、これからの社会について考える学校を計画する。学校の校訓は「生きる知恵を身に着ける」ことであり、ありふれた「あたりまえ」について再考する6つのカリキュラムを立て、経験や体験を通した事物の連関性を学んでいく。耕作放棄地や空き家を活用し、モノや人の循環を促すランドスケープや建築を計画した5つのエリアにより、村全体が教室となり、地域との世代を超えたネットワークが広がる。人と環境が相互に助け合う風景は、現代人が見失いがちな「生きる意義」との向き合い方へとつながっていく。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 佐渡の農村で、村の再活性化のプロジェクトと学校建築のプロジェクトを合体させたような提案だ。自然との共生、農業との共生、さまざまな大テーマを併せ持つ。企画やプログラムも考えられており、他案とは異なる立体性を感じた。建築がかなり奇抜なデザインだったが、その造形が全体のビジョンと合致しているのか、乖離しているのか、よくわからなかった。またこの建築デザインが、街を生かすデザインなのか逆なのかも、わかりづらかった。

審査員 家成 俊勝

 大きなフィールドに小さな拠点を分散配置して繋がりをつくりながら村をつくっていく案である。建築そのものの計画は小さくとも、フィールド全体を捉えることで魅力的な案になっている。既存建物を改修した学びの拠点のみ平面図があり、構造に曲線が差し込まれている。この操作に設計の手つきが現れていると思うが、これが広がるフィールドにたいしてどのような効果を持つのかは分からない。既存建物や新築の建物と起伏のある風景とそこでの活動がどのように繋がっていくのかを丁寧に設計した方が良かったのではと思う。

審査員 大西 麻貴

 模型もドローイングも大変魅力的で、説得力のある提案であった。聞くところによると、建築だけでない異分野のメンバーとチームを組み、コンペ案作成に挑んだそうだ。そのようなコラボレーションの良さが、プレゼンテーションのアウトプットの力に現れていたと感じた。ただし、多少企画的というのだろうか、企画と建築提案との間に断絶があるように感じられたのが惜しかった。提案敷地は一度も訪れたことのないという佐渡だったが、もう少し敷地に実感を持てる場所での提案だったらより良いものになったのではないだろうか。

審査員 百田 有希

 提案の内容も良く、表現された模型やドローイングも綺麗だと思った。気になったのは敷地との向き合い方だった。建築は固有の土地に建つもので、その土地と切っても切り離せないような関係を構築していくものだと思う。敷地は佐渡だったが、企画提案のために選ばれたような感じがした。きっかけは提案ありきでも良いと思うが、敷地と建築の関係をお互いがなくては成り立たないような関係に育てていくとさらに良かったと思う。

審査員 白井 克芳

 自然に恵まれながらも人間の欲で、食糧自給率G7最低の37%としてしまった日本の将来に一石を投じる重みのある提案です。ランドスケープや既存の資源・価値・機能を最大限活用し村全体が学びの場であるという工夫と発信がしっかりしていることや、世代を超えて受け継がれ深化させていくための人材育成に対し授業カリキュラム計画にまで落とし込んでいる提案は、トキ再生を実現した佐渡島を舞台とするに相応しい作品と言えます。佐渡島の村全体を教室とし村社会持続実現を目指したこの提案は、日本の各地から生徒が集まる学びの地に発展し日本全体の持続的社会実現に大きく貢献しそうな気がします。

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