第9回 受賞作品

最優秀賞

偶発的な湧水と学び、そしてその共鳴

光永 周平(熊本大学大学院)

コンセプト

 学びとは何だろうか。学校の帰り道に生き物の観察を始めるような、そんな道草のような行為を本来の「学び」と呼ぶのではないか。「学び」は必然的にはじまるものではなく、偶発的にはじまっているものである。
 本提案は、熊本県阿蘇市一の宮地区にある湧水を中心とした新しい学校の提案である。この地域には水基と呼ばれる水飲み場が点在しており、子どもが登下校中に立ち寄ったり、観光客のスポットにもなっている。人々は、水の音に導かれるように水基に集まる。この水基を中心とした偶発的な人々の空間を建築化し学校とする。
 この建築では、学校の授業の一部を行ったり、帰り道の道草に寄り添ったりする。そこには、子どもたちだけではなく地域の人々が先生として参加したり、観光客が学びに参加する。そして、まち全体の水基に多様な学びが広がり、大きな学校となっていく。
 偶発的な湧水から偶発的で多様な学びが生まれ、雄大な阿蘇の自然に広がっていく。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 阿蘇山の麓の村を舞台として、街全体に広がる湧水の水基に仮設的な軽い屋根や部隊ができて、そこに人が集まって、学びの場になる、という提案だ。接戦ながら最優秀賞となった。陽炎や幻のように儚く軽い建築のイメージで、街全体に広がる案であるにもかかわらず、まったく破壊的でないその柔らかさ、街との調和性に共感した。

審査員 家成 俊勝

 自然を体感することがレジャーとなっている昨今において、自然の恵みが日々の暮らしや生きることとどう関係しているかを学ぶことはとても大切である。阿蘇の水基は既に地域の方々に愛されている場所であるが、来訪者も含め、その素晴らしさを伝えていくために、地域の魅力をハイライトすることも建築のひとつの役割である。栞のように提案が軽やかな仮設の建築であることも、学びが学校の中だけではなく、町の色々な場所にあることを教えてくれる。

審査員 大西 麻貴

 阿蘇神社の周りを訪れると、湧き水の透明さと豊かさに感動する。そのように、土地の恵みが湧き出ている場所に、人々が集まり、学びが生まれるというのは、とても自然なことであり、ある種の学びの原形を提示しているように感じられたのが素晴らしかった。建築が仮設的なものとして提案されており、学びの場が現れては消えていく、その幻のようなイメージも魅力的であった。

審査員 百田 有希

 制度や機能からではなく、場所が持っている歴史や地形・文化的特性から人の集まる場を構想する姿勢に共感した。阿蘇ならではの学びの原型を感じさせる提案だった。湧水が持つ言葉のイメージと提案されている建築の仮設性や、ドローイングで表現されている柔らかいイメージが呼応し、魅力的に感じた。

審査員 白井 克芳

 「水基」は地元住民にとって古より生活の一部であり、既に「阿蘇水基めぐり」という集客機能を保持しています。あるレベルで完成されているその対象に対し、「地形、自然に委ねられた偶発的な湧水」、「観光客との一期一会の機会」といった環境と機会の構成要素を的確に組合せ、ほんの少しの建築要素を付加することで空間を学校化していく発想は、「メンバーが固定されず」「情報が固定されず」「時間が固定されず」「目的も固定されない」、正に偶発を生かし多様を生み出す実現性の高い省資源提案であると言えます。これぞ建築の力と感心しました。

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