第9回 受賞作品

優秀賞

個性の出土

畠山 桃歌(福岡大学)
藤井 綺香(福岡大学)
待鳥 有希子(福岡大学)

コンセプト

 多様な価値観が次々と生まれる現代において、学校はどのような姿であるべきだろうか。小学生になると、子ども達は「教室」や「机」という縄張りを与えられ、形が決められたクラスルームで過ごす。そんなあたりまえに過ごしてきた環境に疑いの目を向けた時、新たな価値を見出すことができるのではないか。かつて外交施設であった敷地からは陶磁器等の出土品が発見されている。これらの発掘された器の形状を採用し、空間を構成する。お椀の破片を建築の文脈に組み込むことで、ありふれたものへの認識や機能を解体し、子どもたちの能動を促す余白が生まれる。アフォーダンスを内包する余白がシームレスに繋がることで、学年や地域の垣根を越えた交流を期待する。自らが居場所を選び、形成し、学ぶ、そんな一人一人の個性を発掘し寄り添うことのできる教育の場を提案する。かつて様々な文化が行き交っていたこの地は多様な個性が交ざり合う交流の地へと再編する。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 出土品である陶磁器のかけらをイメージした断片的屋根が集まって大屋根となり、学校の場を作る、という案で、荒唐無稽というか奇想天外というか、ものすごいストレートなところが素晴らしく感じた。教室を作るときに破片を使わずに作ったりしているが、それはもったいないと思った。破片はまた一階にはあまり登場の機会がないが、もしこの破片だけで建築全体が作られたりしたら、もしかしたら最優秀賞になっていたかもしれない。

審査員 家成 俊勝

 現在の学校は教育のマニュアル化や平準化が進み、サービス業に近くなっているために生徒は受け身になりがちである。本提案は断片的な屋根と、高さの変わる床の間に学校がある。木の下や、ちょっとした窪みのように、季節や時間によって居場所を見つけながら生徒自身が学ぶ場所をつくり出すという能動性が身につくかもしれない。学校が施設として完結しているように見えるので、まちとどのような関係があるのかを盛り込めるとさらによくなったと思われる。

審査員 大西 麻貴

 土器のカケラがつながったような屋根と、地面から掘り出した地形のような床の組み合わせが魅力的な学校であった。個性が出土する、という発想の方法も独特で、大人というよりは子どもの目線でつくられた豊かさを感じた。屋根と地形という二つの要素の組み合わせがあれば、それだけで十分に多様な学びの空間を作ることが出来たはずである。実際の提案は、それとは違う建築的要素や、既存の学校から慣習的に取り出してきた単位が多数含まれていて、それらを取り払ってもう一度考えてみると、よりよい案になるのではないかと思う。

審査員 百田 有希

 土地の持つ歴史的な背景に着目し、地面に埋まっている陶器の破片が出土し、それらが新しい個性に生まれ変わっていくようなイメージが独特で面白いと感じた。屋根が出土した陶器のカケラであるのであれば、床は人工的な床ではなく、地面として考えるとより案の魅力が伝わったのではないかと思う。偶発的な形からどのように人が過ごすのかを新しく構想するスケッチが魅力的だったが、そのイメージが建築全体の構成に及んだり、人の集まり方や教室のあり方に繋がるものだとさらに良いと感じた。

審査員 白井 克芳

 旧鴻臚館跡地から意図しない形で出土される陶磁器などの出土品、様々な形を屋根形状に散りばめたことにより生み出される予期せぬ空間と価値。そんな多様な空間は個性と自主性を自然に受入れ磨き上げ、ポジティブでチャレンジングな人材を育むのではないかと期待してしまう不思議な作品です。また新しい価値創造の壁となる固定観念や既成概念打破に向けた格好の空間かもしれません。更に日本の縄文文化にもつながる土俗的で物質的な自然観を感じると共に、陽の傾きにより創り出される意図しない光と影の空間は、近未来的な宇宙空間にもつながる夢の学び舎です。

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