第8回 受賞作品

特別賞

職をまとう襤褸屋

松井 真央(新潟大学大学院)

コンセプト

 ものづくりが楽しくなる時とは、自分が作ったものが利用されているのが見えたり、他人から感想をもらったりといった「見える、見られる」といったことを感じるときだと考える。そこで、襤褸屋という布再利用を専門にした職業と建築を密接に結びつけ、ものづくりの楽しさを感じる工場を目指した。襤褸屋とは、穴が開いた衣服などの布製品に麻布やぼろきれ、古い布団などをつぎあわせ補強を行っていた江戸時代のリサイクル工場である。かつての農村集落を敷地にし、周囲の住宅街に暮らす人々の衣服を集め、新しい生地も使いながら布を作り、その布を使い、人々が暮らしで利用する衣服、カーテン、布団等を修復していく工場を提案する。小さな集落のようにボリュームを分散させ、住宅街のスケールに合わせた。また、スケルトンの構造体に防水の生地とそうでない生地を稲架木のようにかけていき、工場で作った布自体が建築内の壁材になり建築内の環境を整える。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 ボロ切れを再利用して衣服を作っていく江戸時代の伝統的職業に注目し、同じ考え方で建築を作り出すという提案だ。伝統的でもあり現代的でもある製法に着目した点が評価された。そのアイデアで、構造体まで含めた建築全体を提案してほしかった。

審査員 家成 俊勝

 かつて今和次郎が、家の前に干された着物を観察し、その着物を補修するために色々な着古しのきれが貼り付けられることで個性ができることを発見していました。新品の部品を選んでどう組み合わせるかで個性を競うのではく、そうするしか他にない必要性が個性を発揮していく提案を魅力に感じました。一方で建物の構造が強く固定的であるため、布があくまで外皮としての役割しか持てていないところが提案の弱いところです。布が持つしなやかさやメンテナンス性が前面に出てくる形式があればよかったと思います。

審査員 大西 麻貴

 つぎはぎのボロを縫い合わせ、重ね合わせた衣服が持つ迫力を、建築はどのように持つことができるだろうか?一次審査で示されたドローイングはどこか建築と衣服の間のような、仮設性を帯びたところが大変魅力的であった。このドローイングのイメージを、実際に建築化する際にどのように継続、発展できるかを、これからも考え続けてみてほしい。

審査員 百田 有希

 ドローイングが印象的な提案だった。ボロ布を繋ぎ合わせてつくるという、無限の拡張性や、衣服のように重ねられるという多重性を、そのままどうすれば建築化できるか?と考えるともっと魅力的な提案になったと思う。

審査員 白井 克芳

 パッチワークデザインはオンリーワンの宝庫であり、新しく生まれた一つ一つの価値は求める人により様々に変化します。また色や柄の組み合わせだけでなく、大きさや形も自由に表現できます。このつぎはぎ布で構成された工場は、人の目にはとても興味深く、入場の敷居はとても低いと思います。建物、取扱品、そして敷居の低さ、全てが摩擦レスであり環境にやさしく人にやさしい究極のサステナブルな提案と言えます。一つの小さな集落として地域の憩いの場として機能するもよし、場を転々としても良しで、この事業の継続が意図せず地域にサステナ意義を浸透させていく不思議な魅力を秘めた提案でした。

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