2023年 受賞作品

優秀賞

褒め合える街 
-揺れ動く工場風景画産業を紡ぐ-

池谷 琳花(法政大学大学院)
長瀬 ルナ(日本女子大学大学院)

コンセプト

 人を褒めたくなる時とはどんな時だろうか。
 人々はどんなことをして何を残したか、経過と結果が分かった時に、相手を褒めたくなるのではないだろうか。「働きたくなる」を考えたときに思い浮かんだのは、人に褒められることだった。従来の工場は製造工程を覆い隠すように作られ、ブラックボックス化されているが、実際の工場風景はヒトが場所を行き来し、モノは工場中を巡りながら作られる。何を使っているのかがわからないため、人々は分かち合い、感謝し、褒められることができない。そこで、工場に街のアクティビティを入れる。そうすることで、人が内部に入り込み、働く風景を見ることができる。この工場では暮らしと働きのふるまいを分かち合うことで、私の働きを誰かが見てくれる。そして褒めてくれるのだ。覆い隠された産業を明るみにし、人々が寄り添うことで働く様子を理解してもらえる工場の提案である。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 新潟のカーボン工場の中に宿泊施設や食堂、託児所、商店街などを持ち込み、工場でありながら街でもあるというような状態を作り出す案だ。カーボン工場という、労働環境がよくない雰囲気の工場を、商業機能や福祉機能を持ち込むことで、より人間らしい労働環境を作り上げようとする姿勢に共感した。ある意味で今回の課題にもっともストレートに応えた提案と感じた。

審査員 家成 俊勝

 生産の効率をどう上げるかだけが目的となって生産機械が配列されている空間の中に、直接的には生産と結びつかない小さな建築を点在させて、そこで働く人や工場対岸にある住宅街の住民の心を扱った居場所をつくるという案でとても共感できます。機能や用途によって分割されていく場所を繋ぎ直し、さまざまな行動が混じることで、朝に出勤して、働いて、夕方に帰る賃労働のためだけの工場ではなく、自らの楽しみのために工場に行くという新しい工場の風景を想像できます。

審査員 大西 麻貴

 「働きたくなる工場」というテーマに最もストレートに答えたと言える提案である。巨大な工場の敷地内に商店街や宿、児童館などを組み込むことで、工場へ地域の人も訪れたくなるようにしているところが魅力的であった。ただ地域の人の居場所と、工場で働く人の居場所を完全に分けられていたところに疑問が残った。むしろ工場で働く人にとって作られた居場所に、地域の人もやってくることができるという提案の方が、よりテーマに沿っていたのではないかと感じた。

審査員 百田 有希

 工場の中に人の居場所を見出していく提案だが、テーマに対して真正面から答えていて良いなと思った。建築の力を使って、都市計画で平面的に分けられているものを共存させる方法を考えるのであれば、既存の工場を一つの地形や自然環境のように捉えてもっと立体的に考えると良かったのではないかと思う。

審査員 白井 克芳

 工場に町のアクティビティを入れるこの提案は、メーカーの固定概念を覆す大作です。「入場者研修により成り立っている工場の安全」や「透過性のフェンスで地域にオープンであるという勝手な解釈」など、プロダクトアウト的発想を完全に払拭します。また工場の中を「褒め合える」環境にすることは、安全の向上や地域交流の活性化に留まらず、人間関係や文化慣習の好転や環境配慮に繋がり、グローバル課題であるSDGsの多項目を必然的に構築していくほどの持続性社会の確立にも繋がり、「褒め合える環境の構築の意義」の奥深さに驚かされました。

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