第8回 受賞作品

優秀賞

潮風と余白

川崎 一真(東京工業大学大学院)

コンセプト

 「この食器はあそこの工場で働いてる職人さんに作ってもらってすごく大切にしてるんだ。」「今度、私も頼んでみたいな。」脱工業化に伴う大量生産の体制はこういったモノとヒトとの間で生まれる、愛着やつながりを希薄なものにしてしまった。個人化する社会において経済的な利益を超えて、モノとヒトとの関係性を紡ぐことを目指した工場が必要だと考えた。
 敷地は神奈川県鎌倉市腰越の商店街。相模湾に面する場所だ。この場所は海から近く、一年を通して潮風が吹き続ける。そのため、様々な部材の変色がまちのいろいろなところで見られた。今回の提案では、腐食、変色した部材に色を塗る行為によってマチとヒトとモノの関係性が再編される工場を提案する。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 潮風が吹く海辺の街・腰越で、錆びてゆく金属部材を次々にペンキ塗装してゆくという案で、今回のコンペの中でいちばんよくわからないというか、とらえどころのない計画だった。都市計画的な、全体を俯瞰的に全体を眺める視点と、ペンキ塗装というたいへん表面的に局部を眺める視点の両者が一体化している面白さがある。

審査員 家成 俊勝

 潮風に晒されて錆びつく町のパーツをペンキで塗っていく行為は、とてもシンプルで簡単であるため多くの住民の参加を可能にしそうです。町を公や私に任せっぱなしにするのではなく、同じ狭い地域に住む共同体としてまちをメンテナンスすることの大切さが伝わりました。同時にそれらの色が町の風景をつくり特徴になりそうです。そういった風景をつくることが町の中を移動する視点以外にも、海に出て町全体を見るという視点を想起させてくれるのが素晴らしいところだと思います。

審査員 大西 麻貴

 港町のあちこちに、ペンキを塗るための小さな作業場を点在させることで、まち全体がカラフルになっていくという提案。潮風の影響を受ける港町では、腐食を防ぐために定期的に塗装をやりかえる必要があること、また色を塗るという行為がまちへの愛着や誇りを育む点に着目したことが魅力的であった。二次審査では、一つひとつの空間を具体的に設計しすぎたことが裏目に出て、本来のコンセプトがわかりづらくなってしまったところがあるが、まちへの展開を感じさせる魅力的な提案であった。

審査員 百田 有希

 「街に表出する全ての立面は公共財である」と思わされる魅力的な提案だった。ペンキを塗るというのは、建築の中では一番ローテクで安価な作業であるが、それによって住民の参加がし易いことや、定期的な塗り替が出来ることが想像できる。自分達の手で自分達のまちのアイデンティティを考えつくっていけると思わせてくれる提案で、可能性を感じた。

審査員 白井 克芳

 既存販売店に工場機能を付加することで生み出す新たな価値が、リピーターや口こみによる客の来店に繋がれば「人とモノの関係性」から「人と人の交流」に展開していきます。ペンキによる外観変化だけでなく、同時に人の内面も色づけていく展開は、とても興味深く気軽に試行できる方法だと思います。成功し色づけられた建物が徐々に増えていくことで、人の興味と行動はその先その先へと延び交流が拡大してまいります。色の変化がサインとなり、点から線、そして面への広がりをも期待させるとても良い提案だと感じました。

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