2023年 受賞作品

優秀賞

工場を開く浜小屋 
半工半漁の工場群を目指して

清水 康平(横浜国立大学大学院)
藤本 梨沙(横浜国立大学大学院)

コンセプト

 働きたくなる工場とは、個々で完結するものではなく、地域と一体となった場所であるべきだと考える。このような工場では、ものを作るだけではなく、みんなで一緒にごはんを食べるなど、ここで働く人以外も共に使うことができる。敷地である横浜市子安には、漁村と工場群の埋め立ての歴史や浜小屋という漁村の総有空間がある。これらを手掛かりに、工場群へ浜小屋の役割を拡張し、工業と漁業が手を取り合った半工半漁の暮らしを提案する。かつて漁業を海から遠ざけた埋め立て地を、海と繋がることのできる場だと捉え直し、ここに海と人々を繋ぐための空間を考える。既存の浜小屋の建築的特徴を継承しつつ、幅や高さにリズムを持たせた新しい浜小屋を提案する。新しい浜小屋によって工場群が漁村へ、まちへ開かれていき、交流の場が生まれる。そこでは地域文化が醸成され、また、様々な人々や仕事が互いに敬意をもって共存することができる。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 伝統的漁村とその眼前に作られた巨大埋立地の工業団地とをつなぐ地域共同体を構築する提案だ。浜小屋という子安独自の建築タイポロジーを核にして、工漁連携の新しい暮らしを提案し、評価された。建築の設計が多少雑というか、なんとなく作ってしまっているのが惜しい。

審査員 家成 俊勝

 私は大阪の南港の近くに拠点を構えておりますが、海を感じることはほとんどありません。なぜなら海岸線は高速道路、物流倉庫や工場などが立ち並び、物流拠点と化していて人のための空間ではなく物のための空間と化しているからです。本案は横浜を選び、そういった開発された海際を人のための空間として取り戻していくことを目論み、海そのものを生業にしている漁師さんの営みを再発見するアイデアでもあります。また、物流拠点である場所に接続する既存交通インフラも使い直していくアイデアも盛り込まれており素晴らしい案だと思います。

審査員 大西 麻貴

 横浜市子安において、工場群と漁村とが隣り合い、かつ互いに関連したプログラムを持ちつつも、現状は全く連携していないという点に着目し、互いをつなぐ浜小屋をつくることで、工場と漁村とが交流しながら共存できる未来を描いた提案。工場がその建物の中に閉じたものとしてではなく、まちの歴史と一体になり広がっていく様が想像できたのが魅力的であった。「働きたくなる工場」というテーマにもう少しストレートに答えられると、よりよかったと思う。

審査員 百田 有希

 隣り合う漁村と工場群が、集会所のような小さな開かれた場所をそれぞれ持つことで連携しあえる可能性を示したところが良いと思った。ただ同時に工場と集会所の関係性や工場自体がどのように変化するのかが十分に示されておらず、そこを提示出来れば、より「働きたくなる工場」というテーマに答えられたのではないかと思う。

審査員 白井 克芳

 全国の沿岸に見られる埋め立て工場群。誰もが乾いて冷たい無機質感を抱く中、この作品はビジュアルに優れ一見しただけでどういう内容なのか興味をそそられる作品でした。
 個々に閉ざされた外観的視点ではなく、工場や倉庫の内部機能をみてその組み合わせによる多様な魅力の創出が住民との新たな価値,やりがい、風土,文化を育んでいける。とてもチャレンジングな発想ですが、浜小屋というちっぽけな切り口から地産地消や環境改善、そして地域文化の醸成につながる壮大な発想は、とても面白いと感じました。

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