最優秀賞 | みんながつくる船の劇場 |
---|---|
優秀賞 | 工場を開く浜小屋 半工半漁の工場群を目指して |
褒め合える街 -揺れ動く工場風景画産業を紡ぐ- | |
潮風と余白 | |
特別賞 | まちを薫くみち、香り満ちる。 |
学工給食場 学校給食から始まる学びの工場 | |
職をまとう襤褸屋 | |
三協アルミ賞 | SUTENA-PARK 〜サステナブルな暮らしを共につくる〜 |
田内 丈登(大阪大学大学院)
迫田 真友花(大阪大学大学院)
線香の生産量が日本一の淡路島江井。住民の4分の1が線香とかかわりがあるという江井では、線香の香りが生活の香りとして町全体に漂っている。このような風土に根差した産業がある場所では、「有形のモノ」をつくりながら、伝統や文化、人の活動などの「無形の価値」をつくっている。江井に漂う香りは人々の営みや紡がれた記憶そのものである。工場をまちに対して拡張することで「香りのみち」をつくりだす。拡張されたみちに江井特有の風が吹き抜け、風によって運ばれる香りを通して人々の営みが表出されることで、江井に新しい「風景」をつくりだす。そんな「まちづくり」を担う工場にこそ、働く喜びがあるのではないか。線香は慈悲の心を表していると言われている。線香を薫き、風に乗って香りが広がることで慈悲が江井のまちに平等に行き渡ることを願って。
線香の街として知られる淡路島江井で、工場を拡張して香りの道を作り出す提案。香りという無形の存在を題材にした着眼点が素晴らしい。とらえどころのない無形の存在をテーマにしている割に提案がたいへん物質的で、重量感があるのが多少気になった。
線香工場から出る香りを町の特徴として位置付けて丁寧に設計されている印象を受けました。繁忙期に道に乾燥場を広げていくかつてからの行為に着目し、その行為を建築がサポートするように線香の乾燥場を道に拡張させていますが、通りに2階建ての細長い建築を設けることで通りを閉塞的にしてしまい、同時に線香をつくる行為が固定的になってしまい、道に線香を広げたり、広げなかったりという動的な日々の変化が見えにくくなることで通りの持つ面白さを地べたから分離してしまったように感じます。
美しいドローイングと、丁寧に作られた模型が印象的な提案であった。提案自体から香りが漂ってくるような印象が魅力的であった。既存の街路の上に差し掛けられる構造物が鉄骨造でできており、既存のまちの環境を少し壊しているように感じられてしまったため、もう少し繊細な方法でまちに介入できると、もっと素晴らしかったと思う。
リサーチや綺麗なドローイングからこのまちの魅力を丁寧に読み解き考えてつくられた提案だと感じた。一方で、香りという目には見えない繊細なものを対象としながら、提案されている構造体がゴツくまちに合っていない印象を受けた。もう少しささやかな形で、香りがまちに広がっていく状態を想像させることができたら良かったと思う。
「有形のモノ」を作りながら「無形の価値」を高めてきた産業は国内に数多くありますが、今後その存続は極めて難しい時代になってきたと思います。江井の線香は「淡路島の香司」としてグローバルでも一定の人気は保っています。地元住人において刺激がなくなってしまった「香り」をトリガーに、工場で働く人、地元住人に留まらず観光客など訪れる人全てを引き込んだ香機能再発見の仕掛けは、興味を抱くだけでなく「人としてのあるべき心」をも育てあげられるかもと感じさせる、そんな新たな切り口の提案でした。