第8回 受賞作品

最優秀賞

みんながつくる船の劇場

土橋 侑生(京都工芸繊維大学大学院)
鈴木 啓悟(京都工芸繊維大学大学院)

コンセプト

 「働きたくなる」とは働く人だけに向けた言葉ではなく、地域住民が愛着や興味を持ち働く人を応援したり子供たちが将来働きたくなったりと、関わるすべての人に向く言葉と捉えたほうが素敵である。そうなるためには暮らしや生業と重なりながらモノがつくられ、「完成への希望」をみんなが共有することが大切ではないだろうか。本提案では工場を集落とかけ合わせることで1つの大きな劇場とした。すり鉢型の漁村集落で、住人の誇りであり生活基盤である漁業に欠かせない船をつくる工場を設計する。劇場性を生み出す敷地の3つの特徴を用いて、地域住民と関わりながら徐々に船が出来上がり、進水式を迎えた完成の日に船は舞台の主役となり、みんなに見守られながら海に出ることができるようにした。まるで劇のようなモノづくりによって働く人もそうでない人も「はたらきたくなる」ような希望を共有し、小さな漁村と工場とが共存し続けることを願って提案する。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 すり鉢状の漁村集落を造船工場に作り替えるという提案で、劇場的谷戸地形と造船業の機能性が合わさって、祝祭的空間を生み出している。ものづくりの喜びが建築になり、街になり、また船になるという意味で、すべてが一体化した力強い物語性が提示されており、最優秀賞に輝いた。漁村が造船工場に改造されるところには多少の強引さを感じた。

審査員 家成 俊勝

 暮らしと、船をつくることと、漁業が一体になった町を構想しているのがこの案のよいところだと思います。船をつくる工場は工程が外から見えないことが多いと思いますが、この案では山から海まで船の製造ラインが町を縦断していて、町が工場のようにもなっています。
 つくる行為が一本のラインに集約されているところが近代的なつくる行為から抜け出せていないところであり、この集落の暮らしを支える漁業や他の生業との関係性が町に現れていればさらに良い案になったと思われます。

審査員 大西 麻貴

 既存の地形の劇場性を活かして、船をつくる産業をまちと一体化させたところが魅力的であった。進水式の祝祭性がまち全体へと広がっていくような提案であった。まちに元々造船業の歴史がないことや、実際に造船業を営むには合理性に欠ける点など、疑問に感じるところもあったが、それよりも「働きたくなる工場」を、働く人だけでなく、地域住民も働く人を応援し、完成を楽しみに待つことを通して、そのまちに暮らすことへの愛着や誇りにつながると定義したところが素晴らしく、最優秀賞となった。

審査員 百田 有希

 既存のRC建物の陸屋根を新たな地形の一部と捉え、谷状地形と建築が連携しながら、ものづくりの工程として結ばれていく。集落全体が持っている谷状の空間的特性が建築化されたようなダイナミックな提案が素晴らしかった。この提案で造船業というのは合理性に欠けるところがあるが、それをも払拭する魅力的な提案だった。

審査員 白井 克芳

 地形だけでなく既存の道や空き地、そして建物を最大限活用するという「これまでの生活習慣や住民への尊重や気遣い」を持った当提案は、勝手に応援したり楽しんだりと地域全体が工場の何らかの機能や関係を自然に担ってしまいそうな、まさに釣りバカ日誌の原作にもなりえる作品だと思います。現存するすり鉢状で車も通れない程の狭い道しかない過疎地域である矢櫃集落ですが、「働きたくなる工場」を飛び越えて、「ずっと住みたくなる」憧れを抱かせてくれます。このギャップこそがこの作品の視点,着想の素晴らしさと言えます。

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