第7回 受賞作品

特別賞

奥を持つ裏長屋

本多 響(日本大学)

コンセプト

 かつて、江戸の共有空間は裏長屋にあった。江戸の町屋は関西の町屋に見られる通り庭を持たない代わりに、傍にとられた路地=裏長屋が奥への動線を与えていた。この路地は植木を置く前庭であり、子どもの遊び場であるばかりか、主婦にとっては七厘の火を起こす生活空間であった。さらに、共同便所や共同井戸も設けられ奥まった位置には横丁の人々の精神的絆である稲荷が置かれることもあった。大正以降の近代化の中で、裏長屋は埋もれ、生活というレベルで人と人とをつなぐ場が都市の中から消えつつある。そこで、<裏長屋>という生活空間による場の共有を考える。また、路地が魅力的な街には、路地に奥性を与えドラマ的な場とする<装置>がある。例えば、ヴェネツィアは、迷路のような路地空間からソット・ポルティコというアーチの開口を介して大運河がちらりと覗くドラマ的な景色を持つ。こうした装置をあえてリテラルに再現し、裏長屋に奥性を与える。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 ドローイングが巧みで、異質な言語が連なってゆく多言語的魅力のある路地空間を描いた点が評価された。ドローイングの想像力の豊かさに対して、模型のほうは多少さびしかった。敷地境界線で囲まれた民地の中だけをデザインするミニ開発計画というスタイルだが、敷地の中だけを計画するのでなく、敷地を超えて広がる路地そのもの、ひいては谷そのものを対象にしたほうがよかったのではないだろうか。

審査員 大西 麻貴

 ドローイングに独特の世界観があり魅力的だった。ヴェネチアや弧篷庵といった一見無関係な虚構のイメージも、荒木町の地形や歴史とどこか通じるところがあるように感じられ、着眼点として面白いと感じた。ただ、実際の計画をみてみると、一般的な戸建て住宅計画になってしまっているところがあり、もっと荒木町全体の地形を活かした街全体の提案になっていくとより良かったと思う。

審査員 百田 有希

 手書きのドローイングの持つ不思議な雰囲気が良いなと思った。敷地とは一見無関係のヴェネチアや弧篷庵のイメージやモチーフから出発するのは面白いと思うが、そのアイディアが荒木町という固有の土地が持つ特徴や個性をより強いものにしていくものでないといけないと思う。

審査員 白井 克芳

 「奥」や「裏」「長屋」といった立ち入りにくい文字を使ったタイトルとは真反対に、明るい空間表現がより新鮮で楽しそうな場所という期待を運んできました。これまで表通りのみの活用で衰退が止まらず維持管理の危機に接している建屋や地域が多い中、類似展開であれ例えばアーチの開口を敢えて再現し中庭から裏通り或いは横丁まで通すことで救われる建屋や地域が確かにあると思わせる現実性の高い作品です。

  • Facebook
  • Instagram
  • Twitter
ページトップへ