第7回 受賞作品

優秀賞

地形を貸し出す家

吉田 真緒(横浜国立大学大学院)
田中 優衣(横浜国立大学大学院)

コンセプト

 宿は本来、家の一部を開放し他人を招く場所だった。伊根町の家の変遷を辿ると、舟小屋からはじまった家の原型は次第に分離してきたことがわかった。生活のための主屋と、生業のための舟屋のふたつの役割をもつ家は、次第に中庭をもち、路地が拡張し、ふたつの建物に分かれた。これは、見方を変えれば、家に公共空間が持ち込まれたことを意味する。わたしたちは、伊根町の家と共存する街の構造が、あたらしい宿をかたちづくる手助けになると考えた。長い時間の中で、家の内に意図せず含まれた豊かな環境を、地形を貸し出し旅人と生活を共にすることで、街の暮らしを共有する宿を提案する。この建築は、旅人にとっての宿でもあり、街の人の家でもある。「伊根町の家=地形」を貸し出すことで、旅人は宿主と日常の生活や空間をともに体験し、街や人への思いやりや愛着が生まれるのではないか。

講評(敬称略)

審査員長 西沢 立衛

 伊根町を題材にしたプロジェクトである。伊根町は学生設計課題ではよく取り上げられる設計課題のメッカのひとつだが、この応募案は、歴史への興味、地形と街並みに着目する視点、巧みなドローイングなど秀逸な点が多く、数ある伊根町関連プロジェクトの中でもひときわ光っていた。提案がソフト的な部分に止まっていた印象があり、もう少しハードの提案もあればなおよかった。

審査員 大西 麻貴

 伊根町の街の構造に着目し、現在主動線となっている道が、かつては各家同士の中庭を繋いだものであったことを発見し、提案につなげているところが評価された。街をどのように読み解くかという視点を変えるだけで、街の可能性を広げていけるところが魅力的であったが、タイトルにある「地形を貸し出す」のように、実際にどのように地形全体を宿としていけるかがわかるとより良かったと思う。

審査員 百田 有希

 伊根のまちの歴史的な構造に着目して構想しているのが良いと思った。ただ提案が機能の配置転換や部分の改築にとどまっていて、地形を貸し出すというコンセプトに対して十分でないと感じた。海や背後の丘を含めた地形全体を経験できるような提案となるとさらに良かったと思う。

審査員 白井 克芳

 伊根町があまりにこの提案にぴったりすぎるきらいはあるが、地形や建物といった既存を最大限生かし、ほんの少しの発想の転換による新たな価値創造はとてもうまさを感じます。このようにその地域・場所の既存を最大限生かしつつも新たな発想をプラスする省エネ提案は進化し続けることも可能で、共有したくなってきます。この切り口は全国津々浦々で様々な形で実現できる素晴らしい作品です。

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