齊藤 健太(神奈川大学大学院)
竹島 大地(神奈川大学大学院)
谷本 優斗(神奈川大学)
都市で生活する人々は時計を手放せない。それは、現代社会が発展していくために「早さ」を追い求めた結果である。その対として、故郷をそのような「早さ」に影響されないゆったりとした時間の流れのなかにある空間(あるいは場所)と定義する。目紛しい早さで動き続ける都市のなかに故郷たるものを組み込めないか。
敷地は、テラン・ヴァーグと呼ばれる都市にある人工物と自然が混在した無秩序の空虚・都市空間とする。人の痕跡が長い時間をかけて自然に浸食されていく様は、都市の早さに取り残された時間的な空洞を想起させる。
本提案では、「都市の音」(早さを認識させる音)に埋もれている「故郷の音」(時間的おおらかさを認識させる音)を拾い、都市の早さから解き放たれた、おおらかな時間が流れる建築(=ずっといたくなる建築)を提案する。
ふるさとをテーマにした本課題の中ではめずらしく、提案を建築物のレベルまでもっていった点が高く評価された。またその構成も、音や匂い、空気などをよく感じられる空間構成のように思え、好感を持った。o+hの作品世界を踏襲しつつそれとは異なるものを出そうとした姿勢も、面白く思った。
When we live in cities we hear only the loudest of the sounds. We hear the noise of ambulances, and the noise of airplanes, but we no longer hear the gentle sounds of nature, and we forget them. In this project, the designers wanted to make the resident sensitive to the sounds that we have forgotten, because these natural sounds change with the passage of time - and the seasons. On rainy-days we hear water-drops falling, in the evenings we hear the cat walking on the roof, on sunny days we hear the aluminum roofing expand and contract, and when the ‘zemi’ stops its noise we know that summer is finishing. These sounds link us to ‘sound’ and ‘time’.
建築が人間だけのものというよりは、動物や植物、光や風といったさまざまな生き物や環境とともに考えられているところが魅力的であった。プレゼンテーションでは、音に着目してふるさとらしさを説明されていたが、本来はそれよりももっと広がりのある視点で、私たちのこれからの暮らしの可能性を考えていける提案だと思う。
模型がこの提案の良さを1番物語っていたと思う。都市の中でも、周囲の環境や自然と共にある建築・暮らし方というものが、家を含んだ地域・環境全体への愛着につながっていくんだ、ということが感じられる提案だった。
都会の喧騒の中では人間性は知らず知らずのうちに失われがちですが、そこに音効果により人間性を豊かにする空間を見事に提案している作品です。またこの提案はグローバル問題となっている地球温暖化防止対策コンペでも、必ずLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅の傑作として評価されそうな優れた作品です。
季節に応じて衣服を着たり脱いだり、建材を足したり引いたり、この表現がこの先の多様化社会への対応に一石を投じています。