“待ったなし”の自然災害に対してどのような備えを心がければよいのか、防災アナウンサーの奥村奈津美様にお話をお伺いしました。住まいと暮らしの中で日頃からできる「防災」の参考としてお役立てください。
今すぐ必要ではないからと、防災を後回しにしていませんか?
万が一被災しても、自分だけなら何とかなると考えるかもしれません。しかし、家族が増えたり自分以外の命を守るという視点が芽生えて、「備えておこう」という気持ちが膨らむものです。
「防災」という言葉には、大切な人を守りたいという「愛」が詰まっていると思うのです。
たとえば、出産のお祝いに防災リュックを贈ったり、敬老の日に長期保存水や防災グッズを贈るのもいいですね。自分と大切な人の未来へ、「防災」をプレゼントしませんか。
防災で最も大切なこと、それは住まいがある地域のリスクを知り安全な家に住むこと。津波や浸水、土砂災害から避難しなければならない所もありますが、条件が整えば、在宅避難をおすすめします。
というのも避難所では完全なプライバシー空間がなく、感染症のリスクもあるからです。
車中泊だとエコノミークラス症候群や、冬は低体温症、夏は熱中症の危険がある中生活しなくてはなりません。いずれにしても、体調管理が難しいのです。
一方、在宅避難ならプライベート空間を保つことができ、乳幼児やペットのいるご家庭ならストレスが少なくて済みます。ライフラインが寸断されても備蓄さえしておけば、以前と同じように過ごすことができるのです。
在宅避難であっても避難所で生活する避難者の方と同様に、物資や情報などをもらう権利もあるんですよ。
非常食に関心のある人も多いのではないでしょうか。けれども、家の中には普段から1週間分くらいの食品は常備されているのです。
実は、最もないと困るものは「トイレ」です。
何も口にしなくてもトイレには行きたくなるし、我慢し続けると体調を崩しやすくなります。災害時には停電や断水、配管の破損などさまざまな原因でトイレが使えなくなります。気づかず使用すると水漏れや逆流の恐れもあります。在宅避難をするならぜひ災害用トイレを備蓄しておいてください。
次に大事なのが「水」です。
令和6年能登半島地震においても多くの地域で断水が発生しました。今も断水が続いている地域があります (※取材当時2024年4月時点)。 水道が復旧しても、地震の揺れで家の配管が壊れていたために水道が使えないままの方もいました。平時からしっかりと備えておくことが大切です。
これに「カセットコンロ」と「ガスボンベ」があれば、ライフラインが寸断されても普段と同じ食事がとれます。
被災地でも「お鍋」や「冷凍食品入りの雑炊」がおいしかったという声を聞きました。災害時こそ食べ慣れているものや温かいものを食べられることが心の栄養になるのですね。
そのあとに必要になってくるのが「電気」です。
災害時の情報収集や家族との連絡に必要なスマートフォンの充電切れには不安を感じます。いつも使っている電動自転車や掃除機などのバッテリーからスマートフォンの充電ができるツールがあり、いざという時の備えになります。
停電が長期間続くことを考慮すれば、ソーラーパネルで発電し蓄電池に貯められるようにしておくとさらに安心です。
食品備蓄の目安は最低でも3日分、できれば1週間分が望まれます。
高齢者、慢性疾患や食物アレルギーの方などの災害時要配慮者においては国からも2週間分の備蓄が推奨されています。
私は「プラ1備蓄」をおすすめしています。
「プラ1備蓄」とは賞味期限を切らさないで備蓄できる方法のことです。ローリングストック(普段食べている食品を多めに備蓄し、食べた分を買い足す備蓄方法)を簡単にした備蓄方法です。普段食べているお米やトマト缶など、常温で長期保存できる同じものを2個買って、1つ使ったら1つ買い足します。いつも食べている食品の賞味期限を切らさず備蓄できるのでおすすめです。
非常食を用意する場合は、実際に食べてみて味を確かめた上で備蓄してください。
特にお子さんがいるご家庭では、お子さんが食べてくれるかチェックすることが大事です。
被災地ではアルコールやタバコなど嗜好品がほしいという声もよく聞きます。
災害時こそ、普段食べているものが最高の非常食。
普段使っているものを1つ多めに買っておくだけでも、「もしも」の時への備えになりますよ。
「体の一部になるもの」とは、メガネや補聴器、入れ歯、お薬など、自分の命をつなぐ上で欠かせないもののこと。
スペアを用意しておくか、スペアがなければパッと持ち出せるように、就寝時に枕元におくなどの心がけが大事です。
命をつなぐ上で欠かせない「情報」もあります。ご高齢の方や疾患をお持ちの方ならお薬手帳、赤ちゃんやお子さんのいるご家庭だと予防接種の接種履歴などです。災害時はかかりつけ医も被災している可能性があります。防災リュックの中にコピーを入れておいたり、スマートフォンに保存しておきましょう。
いつどこで被災するかわかりません。通勤や通学など普段から使っているカバンの中に防災ポーチを忍ばせることも有効です。重いと大変ですが、毎日持ち歩ける重さに留めると続けられるのではないでしょうか。
被災して部屋に閉じ込められるリスクを考慮して、水は「分散備蓄」をおすすめしています。クローゼットの隙間やベッド下、トイレなどに分散しておいておきましょう。
食品は「プラ1備蓄」なら普段通りのパントリー、非常食は各部屋におくといいですね。
災害用トイレはトイレに収納しておけば、いざという時も取り出せます。
防災リュックは、部屋の中や押し入れの奥にしまうと、扉が開かなくなった時に取り出せません。すぐに取り出せるように玄関に収納するのがおすすめです。
避難時に身を守るヘッドライトやホイッスル、レインウェア、冬なら防寒着などもすぐに持ち出せるように一緒に収納しておきましょう。
過去の災害の教訓として「災害が起きても普段と違うことはできない」、「普段使っていないものは災害時に使えない」ことが挙げられます。大切な人の命と未来を守るためにも、普段からしっかりと備えてくださいね。